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第35回 地方出版文化功労賞受賞作

第35回地方出版文化功労賞は、本年7月10日の最終審査会において決定した。同賞は、昨年11月2日から11月8日、鳥取県立図書館で開かれた「ブックインとっとり2021」に出品展示された全国の地方出版物(対象約350点)の中から、各地区の推薦委員および一般の来場者による会場での投票によりその中の10点を最終候補作として挙げ、8名の審査員が持ち回りで数カ月にわたって審査したものである。
結果は以下のとおりです。
  
●第35回 地方出版文化功労賞

該当なし

 

●第35回地方出版文化功労賞 奨励賞

■『秘傳 鱧料理 百菜 改訂』

 著 者  朝尾朋樹(あさお ともき)
 発行所  京都新聞出版センター(京都府)
    京都府京都市中京区夷川上ル  電話075-241-6192
 発行者  前畑知之
 体 裁  248頁 定価5,000円+税
 発 行   2021年7月1日刊行

著者略歴
朝尾朋樹(あさお ともき)氏
元 料亭「馳走高月」店主
1945年 兵庫県三木市に生まれる。
1960年 15歳で岡山「西川荘」にて料理の道に入る。その後、神戸、大阪を経て京都の料亭十数店で修行。
1972年 27歳で料亭「土井」の修業を終え、料理長として京都の各料理屋の料理長を務める。
1984年 神宮道 京うどん「京菜家」独立開店
1987年 千本 焼きとり「一菜」開店
1990年 高台寺 料亭「馳走高月」開店
1992年 祇園 寿司割烹「味留」開店
1997年 二年坂京佃煮「梅いちえ」開店
2007年 毘沙門堂・蕎麦懐石「蕎麦高月」開店
2014年 神宮道に「高月梅いちえ」を移店
2017年 全店を閉店
著書
1997年 初版「秘傳鱧料理」(誠文堂新光社)
2017年 「京料理の品格」(角川学芸出版)

<選考理由>
新鮮な海産物が手に入れにくい京都で独自の料理法が発達を遂げ、京都の、特に夏に欠かせない鱧。その鱧の処理法を過去にあったものをよみがえらせ、かつ独自の工夫により生み出した著者が、その技法と料理を伝えようとした、「長年京料理に携わってきた料理人の引退鱧料理論文(改訂版あとがき)」である。

全身に小骨のある鱧は、骨切りによって処理されてはじめて料理の材料となり、その技が競われている。この鱧を骨抜きで処理することにより、あるいは生きた鱧を湯通しすることでそれまでにない料理の提供を可能にした。そのほかにもさまざまに工夫された技法やそれを生かした様々な料理が、多くの美しい写真や図解によりあますところなく、かつ分かりやすくあらわされている。1997年に発行された旧版でもそれは十分に伝えられているが、さらに改訂により、細い骨があまりに多いため作成が難しかった鱧の骨格標本や、日本料理以外にも鱧を広めたいと「ぎおん萬養軒」のフランス料理を加え、技法もより容易に取り組める方法に触れることでこの本の価値をさらに高めた。

改訂版である点で賞に該当するかという疑問が審査過程であったが、地域の文化である鱧料理普及への著者の強い思い、新たに加えられた部分の重要性などが高く評価され、対象となると判断した。
これからに残したい文化的資料である。


■『本とみかんと子育てと
    農家兼業編集者の周防大島フィールドノート』


 著 者  柳原一德(やなぎはら いっとく)
 発行所  みずのわ出版(山口県)
    山口県大島郡周防大島町西安下庄庄2845  電話0820-77-1739
 発行者  柳原一德
 体 裁  672頁 定価3,000円+税
 発 行   2021年1月30日刊行

著者略歴
柳原一德(やなぎはら いっとく)氏
1967年(昭和44)神戸市葺合区(現・中央区)生。
兵庫県立御影高校を経て旧日本写真専門学校卒業。1991年(平成3)奈良新聞に写真記者として中途入社。奈良テレビ放送記者等を経て、1997年神戸でみずのわ出版創業。2011年山口県周防大島に移転。みかん農家、写真館兼業。公益財団法人日本写真家協会会員。編著書に「従軍慰安婦問題と戦後50年」「阪神大震災・被災地の風貌」「震災五年の神戸を歩く」「神戸市戦災焼失区域図復刻版」、写文集に「われ、決起せず―聞書・カウラ捕虜暴動とハンセン病を生き抜いて」(立花誠一郎、佐田尾信作共著)、「親なき家の片づけ日記―信州坂北にて」(島利栄子共著)など。

<選考理由>
移住した周防大島で編集・出版、みかんづくりと子育てを行う著者による、日々の記録である。
みかんづくりの記録がベースになっているが、いわゆる農作業日誌を超えて島の農業や日本の農業・食糧問題などへの考察も記録されている。さらに、かつてジャーナリスト、現在は出版を営み、その間の様々な経験や、神戸に育ち、幼少期の島の生活や東京などでの生活も体験した著者ならではの観察、感想や考察が、幅広いジャンルにわたってちりばめられている。
なかでも農業と島の生活に関しては、実践者ならではの試行なども踏まえた記述に、ハッとさせられることが多い。

一方で、通して読むことの大変さや一般の読者に勧められるだろうかという意見、評価自体が難しいという審査員も一定数あった。
それでも巻末の資料編を含めこの本が著されたことにより、なかなか残りにくい時代と場所の記録を切り取り、文章として後世に残すことの価値は審査員に共通して認識された。

幼少期に島の生活を体験したよそ者としての視点を持ち、いままさにそこで懸命に生活している著者ならではの記述による民俗学的資料的価値の高さと、それをベースに一貫したぶれない立地点からの鋭い論考がこの本への高い評価につながった。


●第35回 地方出版文化功労賞 特別賞


『スマホで見る 阪神淡路大震災
       災害映像がつむぐ未来への教訓』


 著 者  木戸崇之(きど たかゆき) ・ 朝日放送テレビ株式会社
 発行所  株式会社西日本出版社(大阪府)
   大阪府吹田市南金田1-8-25-402   電話06-6338-3078
 発行者  内山正之
 体 裁  220頁 定価1,500円+税
 発 行  2020年12月21日刊行

著者略歴
木戸崇之(きど たかゆき)
1972年京都市生まれ。1995年に朝日放送に入社後、報道記者としてさまざまな災害現場を取材する。2014年から1年半「阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター」に研修派遣。同時期に関西大学大学院社会安全研究科でも災害情報の伝達に関する研究を行う。その成果となる「災害情報のエリア限定強制表示」を2017年、国内の放送局で初めて導入。2019年の「電波の日」近畿総合通信局長賞を受けた。現在、朝の情報番組「おはよう朝日です」で気象情報デスクなどを務める他、「人と防災未来センター」のリサーチフェローとしても活動する。

<選考理由>
阪神淡路大震災で撮影された、テレビ取材映像アーカイブのガイドブックである。
阪神淡路大震災は「テレビカメラが中心となって動画を撮影した最初で最後の大災害(「はじめに」より)」であり、放送局には大量の貴重かつ今後の参考となる映像が保存されている。しかしながら年を追うごとに、また映像についての考え方が変化していく中でそれは活用されなくなっていく。それに危機感を持った朝日放送では取材映像アーカイブとして一般公開した。この本はその中から抜粋した動画を時間軸で整理し解説をつけ、QRコードによりその場で見られるガイドブックとして作られた。

最近では学校でタブレットを使う授業などもありQRコード付きの本自体は珍しくない。しかしこの本によって①震災直後から一定の期間ごとにいくつかの主要なテーマが整理されて提示され、そのテーマに説明文がつくことにより、震災を知らない世代にもそこで何が起こったかイメージしやすく映像を見つけやすいこと、②本として収録され保存されることによって、WEBの膨大な情報の中に時とともに映像が埋没していくことを防げること、③その相乗効果により、多くの人々が震災を振り返り、今後の準備や対策に取材映像が活用される可能性を大きく広げることから選ばれた。
今後こうした形で、様々な貴重映像が多くの人に活用されやすくなることを期待したい。

第35回  審査委員(2022年7月現在)

審査員長   齋藤明彦(元鳥取県立図書館長)
審 査 員  岩田 直樹(公立鳥取環境大学特任教授)
   上田 京子(鳥取短期大学講師)
   山脇 幸人(元倉吉市立図書館長)
   小林 隆志(鳥取県立図書館長)
   岡村 知子(鳥取大学准教授)
   松井 潔(元鳥取県埋蔵文化センター室長)
   村上 博美(鳥取県立図書館司書)