■『ほっとかない郊外 ‐ニュータウンを次世代につなぐ‐』
著者 泉北ほっとかない郊外編集委員会
(せんぼくほっとかないこうがいへんしゅういいんかい)
発行所 大阪公立大学共同出版会(OMUP)
大阪府堺市中区学園町1-1 大阪府立大学内 電話072-251-6533
発行者 足立泰二
体 裁 272頁 定価1,900円+税
発 行 2017年10月5日
著者略歴
泉北ほっとかない郊外編集委員会(せんぼくほっとかないこうがいへんしゅういいんかい)氏
泉北ニュータウンのまちづくり/健康づくりを担う、建築学、栄養学、リハビリテーションを専門とする大学教員および建築家からなる委員会。メンバーは森一彦、小伊藤亜希子、小池志保子、木村吉成、松本尚子、白須寛規、春木敏、早見直美、高井逸史。
<選考理由>
『ほっとかない郊外 ‐ニュータウンを次世代につなぐ‐』
できてから50年経ち、住民の高齢化や空室、交通、利用施設不足など様々な問題を抱えた「ニュータウン」を、住民や行政、地域の団体・法人、大学、企業などが参加協力し、場所と人のネットワークを築くことでよみがえらせる。その過程と成果をいくつかの柱に分けて記した本である。
地域の住民の問題意識から始まった活動はレストランや交流スペース、シェアハウス、サ高住などを産み、住民全体の健康作りや第3の居場所さらには仕事作りまでハード・ソフトを様々に組み合わせ、まちを大きく変えていく。
その実践を担った人、関わった人、一人一人が自分の言葉できっかけや狙い、現状とこれからなどを語っていく。読み物としては章ごとに一人の執筆者が記述した方がより読みやすいという意見もあったが、個別の柱ごとに、立場や関わり方が異なる方達が自分の言葉で語っていることが、実際に地域の問題に関わっている読者にとっては、より具体的ポイントがつかみやすいという点を高く評価した。
いずれにしても全国にたくさんある、同じような問題を抱える地域に、たくさんのヒントと大きな希望を与える本であり、幅広く読んでほしい一冊である。
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●第32回 地方出版文化功労賞 奨励賞
■『満洲分村移民を拒否した村長-佐々木忠綱の生き方と信念』
著者 大日方 悦夫(おびなた えつお)
発行所 信濃毎日新聞社
長野県長野市南県町657 電話026-236-3377
体 裁 214頁 定価1,200円+税
発 行 2018年8月15日
著者略歴
大日方 悦夫(おびなた えつお)氏
1953(昭和28年)、長野県に生まれる。元長野県立高等学校長。現在、高校・専門学校で教える傍ら、地域の近現代史研究に従事。共著・論文は『幻ではなかった本土決戦』(高文研)『ソ満国境虎頭要塞』(青木書店)『戦争遺跡から学ぶ』(岩波ジュニア新書)『長野県の歴史散歩』(山川出版社)『韓国と日本の交流の記憶』(白帝社)『長野軍政部に関する基礎研究』など。長野市在住。
<選考理由>
『満洲分村移民を拒否した村長-佐々木忠綱の生き方と信念』
国策として進められた満州分村移民を消極的抵抗によって遅らせ、その結果中止とさせた村長と、満州国・満州移民について書かれた本である。
満州への移民・義勇兵を、本作品中の資料によれば最も多く送り出した長野県において、佐々木忠綱大下条村長は近隣村と共同で行われようとした満州分村移民を、村の業務を遅らせることによって在任期間中行わず、結果的に分村移民は中止となった。
国や県からの締め付けが強力だった戦中期において、なぜ彼は分村移民を拒否したのか、その背景は何かを①青春期の実体験②伊那自由大学での学び③村長として参加した戦前の満州農業移民地視察団での知見・違和感から説き起こす。
そして、高まる圧力の中、妻の支えなどもあり、信念に基づいて分村移民に消極的な態度をとり続ける様子や、戦後、教育と医療に情熱を注ぐ姿が記述される。
戦後のインタビューで書かれている部分が多い事もあり、背景となった生い立ちなどに比べ、もう少し村長時代の動きや心理などについて詳述があった方がよかったという意見もあったが、苛烈な時代にあってもこうした村長がいたということは驚きであり、満州移民の戦後の悲劇的状況さえ遠くなりつつある現代で、忘れられがちな事実を世に知らしめた事の意義を高く評価した。
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●第32回 地方出版文化功労賞 特別賞
■『北武蔵の和算家』 著者 山口 正義(やまぐち まさよし)
発行所 まつやま書房
埼玉県東松山市松葉町3-2-5 電話0493-22-4162
発行者 山本正史
体 裁 398頁 定価2,500円+税
発 行 2018年2月26日
著者略歴
山口 正義(やまぐち まさよし)氏
1945年埼玉県毛呂山町生まれ。東京都羽村市に住む。千葉工業大学電子工学科卒業後メーカーにて通信機器等のソフトウェア開発・システム開発に永年従事。定年後地域の歴史や和算などを調査勉強中。
著書『尺八の歴史と音響学』(私家版、平成15年)『尺八史概説』(出版芸術社、平成17年)『天文大先生千葉歳胤のこと』(まつやま書房、平成21年)『飯能の和算家・石井弥四郎和儀』(私家版・平成24年)『やまぶき―埼玉北西部の和算研究の個人通信』(私家版・平成28年)他
小論『慈光寺の銅鐘は盤渉調なり』(埼玉史談、59巻3号)『千葉歳胤と児玉空々』(毛呂山郷土史研究会「あゆみ」、36号)『江戸宿谷氏の改易について』(同上、38号)『虚無僧の歴史の一断面―青梅鈴法寺を巡って』(同上、41号)『市川行英門人・石井弥四郎和儀のこと』(群馬県和算研究会会報、第50号記念)他
<選考理由>
『北武蔵の和算家』
これまであまり光の当たらなかった北武蔵(埼玉県北西部)の和算者達の人物紹介と扱った和算の問題を整理、記述した本である。
江戸期から明治にかけて、日本では西洋数学とは別のアプローチによる様々な数学の問題が設定・解法され、和算という分野が確立されていた。これを支えたのは職業としての和算家だけでなく、和算を学び、新たな問題へチャレンジする様々身分の人たちが各地にいて、文化的な広がりを支えていたという特徴がある。
著者は関孝和を生んだ上州などと異なり、取り上げられることの少ない、今となっては名も忘れられた北武蔵のたくさんの算者達に、資料などの失われる前に光を当て、記録として残そうと丁寧な調査を進め実現している。さらに著者の意図を超えて、その時代の日本国内の純粋に知的意欲に基づく和算熱の広がりも想起させる。
かなりコアな内容であり、算術の問題も理解しにくいことから広く読書を勧められないという意見もあったが、忘れられようとしている地域の文化について書かれた貴重な本であり、郷土資料として図書館などに所蔵されるべきものであると思料、特別賞を贈ることとした。
なお、具体的な多数の資料、付録、索引の充実も今後の参考資料としての価値を高めていることを付け加えておく。
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